外科統括部長 副院長の竹村と申します。
新型コロナウイルス感染症は発生後約3年が経過し、 既感染 (コロナウイルスにかかったことがある方)の方も増加しています。 コロナウイルス感染罹患後に感染が消失したにもかかわらず、 疲労感や脱毛・睡眠障害・味覚低下など様々な症状が生じる方がおられることが知られており 『罹患後症状』と呼ばれています。 しかし、 罹患後症状の定義は定まっておらず、研究により様々な解釈がなされています。
非常に頻度は低いとは思われますが、当院では新型コロナウイルス感染症罹患後に、感染前には無かった『飲み込みにくさ』や『つかえ感』 を自覚された方が来院されました。 感染前にはこのような全く自覚することはなく、 感染後数ヶ月経過した後に症状を自覚されておられます。 食道の運動を計測する詳しい検査を行うと、 食道アカラシアという食道の運動が低下し食物が胃に運べない特殊な病気であると診断されました。
食道アカラシアはまれな疾患で、 食道の動き (蠕動) が無くなるとともに食道から胃への食物の流れが悪くなり、 食道内に食物が停滞し嘔吐や胸部不快感を起こすことが知られています。 また、 食道アカラシアの発症の原因はわかっていませんが、何らかのウイルス感染症により生じる可能性も指摘されています。 食道内に食物や液体が長期に渡り停滞する状態が持続すると、 食道の拡張や蛇行が生じてきます。 この食道アカラシアは軽度のうちは、 診断が困難であることが知られており、内視鏡検査をしてもなかなか診断できないことがあります。
食道を専門とする内視鏡施行医が見ると診断されることがありますが、 異常が無いと診断される方が沢山おられます。食道アカラシアの診断確定のためには、 食道内圧測定検査(ハイレゾリューションマノメトリー) と呼ばれる特殊な検査が必要になります。 食道の病気を診断するために行われる検査には様々なものがありますが、 食道内圧測定検査はどの施設でもできる検査ではなく、大学やセンター病院で行っていることが多い特殊な検査です。
食道の病気に対する検査
- 消化管造影:バリウムなどの造影剤を用いる。食道の運動や形状がわかる。
- 内視鏡検査:食道・胃・十二指腸の診断が可能
- 胸部・腹部CT検査:食道だけでなく、胸部・腹部の他の臓器の診断も可能
- 食道内圧測定 (ハイレゾリューションマノメトリー):食道の動き方 (蠕動)の診断ができる新しい検査法
- 24時間食道インピーダンス・pHモニタリング検査:小型のpHセンサー付きのカテーテルを鼻から挿入して、24時間にわたって携帯式の記録装置に食道に逆流してくる胃酸を連続記録する測定検査です。
当院ではこれれの検査全てが施行可能です。
当院では2019年よりこの食道内圧測定検査を導入し、 現在まで 150 例の方に検査を行ってきました。 今回のコロナ感染後の方も食道内圧測定検査を行ったところ、食道の動きが無く食道アカラシアと診断されました。食道アカラシアの治療は食道と胃の繋ぎ目の筋肉を緩める薬を使う内服治療や、 内視鏡で食道と胃の繋ぎ目を風船で膨らませるという治療が行われてきましたが、最近では内視鏡を用いて食道の筋肉を切開して広げることで通過を改善する POEM 法と呼ばれる治療法が普及してきています。これに対して以前から行われている治療法に腹腔鏡下に食道の筋肉を切開する腹腔鏡下筋層切開法があります。
当院で診断された食道アカラシアの方には、 POEM 法と腹腔鏡下手術の両方の治療法を説明しておりますが、当院ではPOEM 法は行っておらず腹腔鏡下手術のみを行っています。
食道アカラシアに対する治療
- 内服治療:下部食道の筋肉を緩める薬が使われることがあるが、頭痛や血圧低下がある。 あまり行われない。
- ボツリヌス毒素注入療法:本邦では行われない。
- 内視鏡下バルーン拡張術 : 内視鏡でバルーンを食道内に入れて、膨らませることで、食道と胃のつなぎめを広げる。
- POEM法:内視鏡で食道から胃の筋肉を切開する新しい治療法。最近では最も行われています。
- 腹腔鏡下筋層切開術:全身麻酔で腹腔鏡を用いて、食道から胃にかけての筋肉を切開する手術。 以前より行われており、治療成績も安定しているが、手術には慣れが必要です。
- 食道切除術:食道癌などの他の病気ができたり、食道アカラシアの進行により、食事ができなくなったりした場合に適応されます。
コロナ感染後のみだけではなく、 以前より飲み込みにくさやつかえ感、嘔吐などがあり原因がわからず悩まれておられる方は当院外科を受診いただければ、 食道の運動機能を測定する検査で診断が可能になる場合がありますので、是非ご受診いただければと思います。