内視鏡外科部長の竹村と申します。
通常は病気の進行度や程度とそれに伴う様々な症状の程度には相関が見られることが多く、病気の 進行により症状が悪化していきます。しかし、食道裂孔ヘルニアは非常に特殊な病気で、その大き さ(程度)と症状が一致しない方が多くおられます。
食道裂孔ヘルニアは内視鏡を施行した方の約 半数に認めるという多い疾患で、I型(滑脱型)からIV型(複雑型)まで、4型に分類されています。このうち、I型の小さな食道裂孔ヘルニアは最も多く食道裂孔ヘルニアの90%以上を占めると されており、IV型は非常にまれです。食道裂孔ヘルニアという病気の中ではI型(滑脱型)は非常に 小さく軽度のものであり、比較的若い男性によく見られます。I型食道裂孔ヘルニアは症状が全くなく無症状で経過される方から高度の逆流性食道炎を呈している方まで様々です。逆流性食道炎が高度の場合には、胃酸を抑える薬を服用することで症状が良くなる方があります。
また、内視鏡検査で逆流性食道炎の程度は軽度であっても、胸部不快感や喉の違和感、夜間に口まで逆流してくるなどの症状が非常に強い方が存在することも特徴です。内視鏡検査だけを見ると、食道裂孔ヘルニアの程度が極軽度であるため、かかりつけの医師からは「問題ありません」や「非常に軽度の食道裂孔ヘルニア」などと説明があり、症状の強さと一致しないため、このギャップに悩まれる方も比較的多い特殊な病態です。
一方、III型・IV型の大きな食道裂孔ヘルニアを持つ方は高齢の女性が多く、胸部不快感や嘔吐がよく見られる症状で、逆流性 食道炎による症状は比較的軽度な方が多いのが特徴です。さらに、ご高齢の方では嘔吐から誤嚥性肺炎を生じる方もおられます。この胸部不快や嘔吐は薬で改善しない方が多いことが特徴です。薬による治療を行なっても改善しない方に対する治療法として、外科的治療が行われるようになってきています。
その一方で、食道裂孔ヘルニアに対する外科的治療は海外では非常に多く行われている消化器外科手術ですが、日本では専門に行っている施設は非常に少数です。これは、日本ではこれまで様々ながんに対する外科的治療が優先され、がん以外の疾患に対する外科的治療が積極的には行われてこなかったという経緯があります。 しかし、最近では良性の病気でもそれにより長く症状に悩まれておられる方に対する外科的治療が、生活を改善・向上させ得る手術として注目されています。
当院では2017年より食道裂孔ヘルニアに対する腹腔鏡手術を導入し、食道裂孔ヘルニアに伴う様々な症状を改善する手術と して、積極的に行ってきました。現在では年間手術件数が日本最多となり、これまで250例を超える方に手術を適応してきました。手術件数が増えることで、手術術式への習熟が進み、安全に安定して行えるようになっています。2019年以降2021年まで3年連続日本最多の手術件数となっていますが、今後とも安全に手術を行うことを優先し、食道裂孔ヘルニアに対する手術を行っていきたいと考えております。