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食道裂孔ヘルニア・逆流性食道炎の手術件数が350 件を超えました

外科コラム

外科統括部長 副院長の竹村と申します。

 外科医が診療の対象とする病気は、癌を代表とする悪性疾患と、急性虫垂炎・鼠径ヘルニア・胆石症などの良性疾患に分かれています。
 これまでの外科医は、悪性疾患の治療を中心に考えてきましたが、近年の急速な抗がん剤や放射線治療の進歩により、外科医の役割は相対的に小さくなってきています。

 その一方で、ご高齢の方の人口増加により増えている良性疾患に対しての外科的治療はますます重要になってきています。このご高齢の方に多い病気で外科医が診療する病気のひとつとして食道裂孔ヘルニアがあります。

 食道裂孔ヘルニアは比較的頻度の高い病気のひとつで、胃カメラを受けられた方の約半数に診断されると言われています。
 食道裂孔ヘルニアは横隔膜の食道が通過している穴(食道裂孔)が拡大し、お腹の中の臓器(主に胃)が胸に脱出する病気で、その原因ははっきりわかっていませんが、高齢化による横隔膜筋肉の緩みや肥満による腹圧の上昇が関与していると考えられています。
 しかし、食道裂孔ヘルニアがあっても必ず症状がある訳ではなく無症状の方も多く、症状のある方では逆流性食道炎の症状を認めます。

 さらに、食道裂孔ヘルニアが大きくなると、逆流症状のみではなく、頻回の嘔吐や胸部不快感・心窩部痛などの症状が生じ、これらの症状が長く続き改善しないことで、生活の質が悪くなっている方もおられます。
 食道裂孔ヘルニアに対する治療の基本は薬による症状の改善で、逆流性食道炎に対する薬を使用することで症状が改善する方も多くあります。しかし、食道裂孔ヘルニアは食道と胃の形が変わってしまう病気であり、薬では食道裂孔ヘルニアそのものの治療にはなっていません。また、一旦食道裂孔ヘルニアになってしまうと、通常は改善することは困難です。

 このように食道裂孔ヘルニアは多彩な症状を呈しますが、良性疾患でありかつ日本では様々な薬が安価に手に入ることと、絶対的な手術適応が無かったことから、これまで日本では良性疾患である食道裂孔ヘルニアに対してはほとんど手術が行われてきませんでした。

当院では2017 年以降食道裂孔ヘルニアでお悩みの方に生活の質の改善を目指して、腹腔鏡下に行う食道裂孔ヘルニアの修復術を積極的に行ってきました。これまで食道裂孔ヘルニアに対する手術成績を検討し報告することで、当院の治療に興味を持たれた方が全国各地から来られるようになり、現在まで350件を超える食道裂孔ヘルニアに対する手術を行ってきました(図)。

 大学病院や様々なセンター病院では癌の手術を主に行っているため、この手術を積極的に行っている施設は少数です。当院では今後とも、安全性に注意しつつ、外科的治療が有効と考えられる方には食道裂孔ヘルニアに対する手術を行っていきます。