内視鏡外科部長の竹村と申します。
ひとには口から肛門まで消化管と呼ばれる一本の管がつながっており、このうち口と胃をつなぐ25cm程度の長さの消化管を食道と呼んでいます。この食道には食べ物を消化する機能はなく口から入った食べ物を胃に運び込む運動を有しています。
この運動は蠕動と呼ばれ、通常は食道の口側から胃側へ上から下に向かって順番に生じますが、この蠕動が正常に生じない病気を食道運動異常症と呼んでいます。
食道運動異常症はのどの違和感や飲み込みが悪い、嘔吐、胸の痛みが主な症状ですが、最近になって出来た概念で食道疾患を専門とする医師以外ではあまり知られていない病気であり、なかなか診断がつかないのが現状です。この食道運動異常症には様々な疾患を含んでいますが、そのうち最も多いのが食道アカラシアと呼ばれる病気です。
食道アカラシアは10万人に1人の割合で存在するとされますが、これまで通常よく行われている内視鏡検査では先ほどの症状があっても異常なしと診断されることが多く、なかなか診断がつきませんでした。しかし、食道の動きを測定できる診断器機の開発や、内視鏡検査でも特有の所見があることがわかってくることで、実際には患者さんの数はもっと多いことがわかってきました。
食道アカラシアには特有の発症年齢はなく、男女の差はないとされています。症状としては、飲み込みにくさ、喉の違和感、食後の胸の下の方の痛み、嘔吐などがありますが、前述の理由から軽症の場合には様々な検査でも異常がないと診断されることが多く、重症の場合には食道の機能が破綻し、食道が著しく拡張することで診断されます。
食道運動異常症
- 食道アカラシア
- 食道胃接合部通過障害
- 遠位食道痙攣
- ジャックハンマー食道
- 無蠕動
- その他
食道アカラシアの原因は現在でもわかっていませんが、食道壁の筋肉の間に存在する神経の変性・減少が原因のひとつと考えられています。ただし、神経がなぜ変性・減少するのかはわかっていません。この神経の変性に伴って食道と胃のつなぎ目の筋肉が広がらなくなることと食道の蠕動運動が無くなることで、様々な症状が生じてきます。
食道アカラシアの治療は原因がわかっていないことから、病気そのものを直す治療は困難であり、症状を改善するために行われます。内科的な治療と外科的な治療がありますが、内科的治療には食道の筋肉を広げる内服治療と内視鏡下に風船をいれて肉を拡張させる内視鏡的バルーン拡張術があります。しかし、内服治療は血圧が下がる副作用があり、バルーン拡張術は拡張に伴って食道が破裂したり効果が少ないことがあります。最近では内視鏡を用いて動きの悪くなった筋肉を切開し通過を良くするPOEM(ポエム)法と呼ぶ新しい治療法が開発され、特定の病院で行われていますがまだ導入している病院も少なく治療成績が確立していません。外科的には腹腔鏡を用いて筋肉を切開する腹腔鏡下筋層切開術が行われます。
本治療法は治療成績は確立していますが、全身麻酔が必要であることや手術であるため頻度は低いですが合併症が起こることがあります。当院でも腹腔鏡下筋層切開術を本年より導入しており、患者さんとの相談のうえ適応しています。原因のはっきりしない飲み込みにくさ、食後の胸の痛みや違和感、頻回の嘔吐などの自覚症状がある方は当院外科を受診いただければ症状改善の一助になり得ることもあると思います。