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食道裂孔ヘルニアに対する治療と腹腔鏡下手術について

外科コラム

内視鏡外科部長の竹村と申します。

現在の日本では高齢者人口が急速に増加するにともない、高齢者に多い疾患の患者さんが急速に増えてきており、そのうちのひとつに食道裂孔ヘルニアがあります。食道裂孔ヘルニアは以前より良く知られた疾患ですが、特に最近では内視鏡検査の普及により診断される機会が増えてきています。今回、この食道裂孔ヘルニアについてと、我々が行っている食道裂孔ヘルニアに対する腹腔鏡下手術について解説します。

 我々の胸とお腹の境界には横隔膜とよばれる筋肉でできた膜があり、お腹と胸を別の空間に保つ役割をしています。この横隔膜には食道が通過する穴(食道裂孔)が開いており、通常ではこの食道裂孔に食道と胃のつなぎ目(食道胃接合部)が固定されています。この穴がなんらかの原因で大きくなり、さらにこの穴を通して胃の一部や様々なお腹の中の臓器が胸に脱出すること食道裂孔ヘルニアと呼んでいます。

 食道裂孔ヘルニアの発症の原因は様々なものがありますが、肥満・慢性の咳嗽や喘息による腹圧上昇や、加齢によって横隔膜の筋肉がゆるむことによって生じると考えられています。さらに、高齢の女性では背中の骨が曲がる(円背)ことによって腹圧が高くなることと、筋肉のゆるみによって大きな食道裂孔ヘルニアが生じやすくなります。

 食道裂孔ヘルニアは図1の如くI~IV型に分類されており、それぞれに病態や治療方針が異なります。I型は胃がまっすぐ胸の方向にずれており大部分の方はこのI型に分類されます。II型は食道と胃のつなぎめは正常の位置にありますが、胃が部分的に脱出している状態です。この型は非常に頻度が少ないとされています。III型は胃が大きく胸に脱出している状態で高齢女性に多い型で、胃が捻れてしまう危険性や突然の嘔吐を生じる可能性もあります。IV型は胃だけでなく、大腸や小腸など他の臓器も胸の中に脱出している状態で、非常に危険な型とされています。

 横隔膜は食道と胃のつなぎ目(食道胃接合部)を固定することで、胃から食道へ胃の内容物が逆流するのを防いでいます(逆流防止機構)が、食道裂孔ヘルニアの方ではこの逆流防止機構が破綻し、逆流性食道炎が生じやすくなります。多くの方は食道裂孔ヘルニアが小さく、症状もほとんどないため治療を行う必要はありませんが、食道裂孔ヘルニアは胃がずれてしまい形が変わってしまう疾患のため、一度形成された食道裂孔ヘルニアが自然に良くなることはありません。逆流性食道炎が強い場合には胃酸を抑制する内服薬を用いた内科的治療の適応となります。

 一方、内科的治療によっても症状が持続する方、嘔吐やそれに伴う誤嚥性肺炎を生じる方、強い胸痛がある方、大腸や小腸などお腹の中の胃以外の臓器も脱出している方は外科的治療の適応となります。この外科的治療の適応となる方は内視鏡外科学会の全国集計でも年々増加してきており、腹腔鏡下手術の良い適応となります。腹腔鏡下に胃が胸の中に戻りにくい状態にするため食道裂孔を縫縮し、逆流性食道炎を起こりにくい状態に胃の形を作り替えます。臓器の切除が必要ない手術であり、傷の小さな腹腔鏡手術が非常に良い適応ですが、縫合手技が多く経験の豊富な外科医でないと難しい手術とされています(図2)。

我々はこの食道裂孔ヘルニア手術に非常に多い経験を有しており安全に手術が可能です。
食道裂孔ヘルニアや逆流性食道炎でお悩みの方は当院外科を受診いただければ、症状改善の一助になり得ると思います。