内視鏡外科部長の竹村と申します。
食道裂孔ヘルニアは横隔膜にある食道と胃のつなぎ目を固定している食道裂孔とよばれる孔が緩んで開大することで、食道と胃のつなぎ目が胸の方向にすれ込む病態ですが、高齢者人口の増加に伴い、巨大な食道裂孔ヘルニアを持つ方が増加しています。しかし食道裂孔ヘルニアがあっても症状の無い方も多く、軽い心窩部の不快感のみで殆ど無症状のまま過ごされている方が多い病気です。
食道裂孔ヘルニアに伴う症状の多くは食道と胃のつなぎ目が緩むことによる逆流性食道炎の症状で内服治療が適応となりますが、内服治療でも症状が持続する方や嘔吐や胸部不快感、さらに突発的に起こる胸痛などを伴う方は外科的治療の適応となります(表1)。今回は、この食道裂孔ヘルニアに対する外科的治療の適応について解説します。
食道裂孔ヘルニアは以前にも解説しましたが、Ⅰ型からⅣ型に分類されます。Ⅰ型は食道と胃のつなぎ目が胸に持ち上かってしまう型で、Ⅱ型は食道と胃のつなぎ目はそのままの位置で胃の一部が脱出する型で、Ⅲ型はⅠ型とⅡ型の混ざった型で胃の大部分が胸にずれ込むことがあります。Ⅳ型は胃だけでなく、大腸や小腸など他の臓器も脱出する型です。Ⅲ型・Ⅳ型を持つ方が最近増力しています(図1)。
食道裂孔ヘルニアの手術適応はそれぞれ型で異なっております。Ⅱ型・Ⅳ型は胃の壊死や大腸や小腸など他の臓器の血流障害を起こすことがあり、絶対的な手術適応とされており緊急手術にもなり得ます。Ⅰ型は逆流性食道炎を伴うことが多く、症状は内服治療でコントロールできることが多い型です。しかし、この内服治療で逆流性食道炎の症状が抑えられない方や、持続する方は手術適応となります。Ⅲ型はご高齢の女性に多く、食後の區吐や胸部の不快感を伴う方は手術の適応となります。
このように食道裂孔ヘルニアの手術適応はその型によって異なりますが、術式は共通しており脱出した胃をお腹の中に戻し、開大した食道裂孔を縫い縮めます。さらに、胃から食道への逆流を抑えるような形に胃と食道のつなぎ目を作り替える術式も一緒に行います。以前は傷の大きな開腹手術で行われていましたが、最近では傷の小さな腹腔鏡手術で行われることが多くなっています。(表2)
我々はこれまで食道裂孔ヘルニアに対する腹腔鏡下手術を50件以上経験し、関西圈でも有数の経験数を持つとともに全国学会でもその治療成績を発表しております。手術をうけられた方はやはりご高齢の方が多く、80歳以上の方が20例、90歳以上の方が1例でした。食道裂孔ヘルニアを持つ方は胸の不快感や嘔吐などが持続し、内服治療でもなかなか症状がとれず悩んでおられる方が沢山おられます。また、一度発症してしまった食道裂孔ヘルニアは悪化することはあっても自然治癒することは期待できず、良性疾患であることから外科的治療の適応となるという知識に乏しい医師も多くおられます。我々の施設では日本食道学会の認定する食道外科専門医と食道科認定医が常勤し食道の疾患の診療にあたることで、今後もご高齢で増加すると考えられている食道裂孔ヘルニアに対して安全な手術を行っていきます。