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食道裂孔ヘルニアによる症状について

外科コラム

内視鏡外科部長の竹村と申します。

 食道裂孔ヘルニアは非常に頻度の高い疾患として知られており、日本人では内視鏡検査を受けられた方の約半数に診断されるとされています。しかも、その頻度は上昇してきています。

 これは日本人における高齢者人口の急激な増加と、肥満人口の増加による内臓脂肪の増加と関係があります。特にご高齢の方では、胃の1/3以上が胸腔に脱出するような大きな食道裂孔ヘルニアの方が増えてきています。

 この食道裂孔ヘルニアは逆流性食道炎と関連する最も重要な病態であり、主に逆流性食道炎と同様の症状を呈します。しかし、多くの方は単にヘルニア状態にあるというだけで無症状か非常に軽い症状のみであり、内視鏡検査時に食道裂孔ヘルニアと診断されますが治療を必要としません。

 その一方で、逆流性食道炎による胸やけ、さらに嘔吐や心窩部の不快感、突発的な胸痛、喉の違和感などの多彩な症状を呈することがあります。さらに、就寝時や明け方に逆流が多く生じ、口にまで苦い逆流物が戻ってくることや咳の発作が出る方もおられます。

食道裂孔ヘルニアの症状
● みぞおちの不快感
● 突発的な心窩部痛・胸痛
● ゲップ・嘔吐
● 胸やけ
● 呑酸
● 喉の違和感や締め付け換
● 呼吸困難・咳
● 不快な口臭  など

 逆流性食道炎を呈している食道裂孔ヘルニアの方に対しては、逆流物の刺激を抑えるため胃酸を抑制する薬や胃から食物の排出を亢進させる薬が用いられ、多くの方では症状の改善が得られます。

 しかし、大きく大きく胃が脱出した食道裂孔ヘルニアの方では胃からの排出が悪く、薬を飲んでも症状が改善しない方がおられます。さらに、内服薬治療では逆流物の刺激性は低下させ得ますが、嘔吐そのものや夜間の逆流は止めることはできないため不快な症状が持続する方もおられます。そのような方には外科的治療が有効な場合もあります。

 食道裂孔ヘルニアという状態は食道が胸からお腹まで通過するための横隔膜にもともとある食道裂孔という筋肉の欠損部が大きくなる形態的な変化を指す病態であり、筋肉そのものが無いため食道裂孔ヘルニアそのものが治ったり運動で改善することは期待できません。ただし、姿勢を良くすることやお腹の脂肪を減らすことで、症状の悪化することを抑制できる可能性や、上半身を軽く挙上して就寝することで症状の改善が得られる可能性もあります。これら内科的治療や日常生活の改善によっても症状の改善が得られない方は外科的治療の適応となります。

 食道裂孔ヘルニアに対する外科的治療は近年腹腔鏡下に行われることが多くなっており、日本では手術件数は年々増加しています。しかし、全身麻酔下に行う手術であり、合併症が無いわけではありません。合併症として最も危惧されるのは食道裂孔ヘルニアの再発です。食道裂孔ヘルニアを生じる方の多くはもともと食道裂孔周囲の筋肉が非常に脆弱であり、手術をしても脆弱性が改善するわけではありません。手術では食道裂孔を食道が通過する幅まで縫い縮め、胃が脱出しないように周囲の筋肉に胃を固定していくのですが、もともと筋肉が脆弱なため再度食道裂孔が開大してしまい、食道裂孔ヘルニアが再発する方が10~30%程度はあるとされています。この再発の頻度を低下させるため、食道裂孔周囲に筋肉を補強するためのメッシュと呼ばれる薄いシート状の人工物を張り付けるという術式も行われていますが、このメッシュによる合併症が生じることもあり一概にメッシュの使用がいいとは言えません。

 我々は食道裂孔ヘルニアに対する腹腔鏡下手術を2017年より導入しており、現在まで50例の手術を施工することができました。癌に対する手術と異なり、日本でも現在年間350件程度しか行われていない手術なので、当院の経験がいかに多いかがわかります。当院では食道裂孔ヘルニアの再発はメッシュを使用しなくても術式の工夫により頻度は低いですが、食道を注意深く今後も手術後の経過をみていくとともに、安全に行っていくことに常に留意したいと思っています。