内視鏡外科部長の竹村と申します。
胃疾患に対する手術の安全性が向上したことにより、胃の手術を受けられて何十年と生活されておられる方が増えています。その一方で、胃を切除する手術により胃が持っていた機能が無<なったことで生じる様々な症状を、胃切除後症候群と呼んでおり、術後長期にわたり様々な症状で悩んでおられる方も増えています。
ダンピング症候群は胃切除後症候群の代表的な病態のひとつで、食後に頭痛・動悸・めまいや倦怠感など様々な症状が生じることが知られています。その他には、下痢・貧血・胆石症・骨粗耘症なども含まれています。
胃切除後症候群 |
● ダンピング症状 ● 小胃症状 ● 下痢・便秘 ● 逆流性食道炎(胃切除後逆流性食道炎) ● 貧血(鉄欠乏性・ビタミンB12欠乏性) ● 骨代謝異常 ● 消化吸収障害・乳糖不耐性 ● 骨格筋肉量の減少(サルコペニア) |
逆流性食道炎もそのひとつであり、外科的治療により胃と食道のつなぎ目にある逆流防止機構が失われることで、難治性の逆
流性食道炎を生じます(胃切除後逆流性食道炎)。症状は通常の逆流性食道炎と同様に胸やけやみぞおちの痛み、胸部の不快感が主な症状ですが、胃切除後は胃酸分泌が低下しているため、通常の逆流性食道炎に対して投与される胃酸分泌抑制剤ではあまり効果が望めません。食後すぐに横にならない、半身を上げる、食事から就寝までの時間をあけるなど日常生に注意することで、症状が改善する方もおられます。
その一方で、胃切除後の再建法によっては残った胃内に十二指腸内の胆汁が逆流し、その胆汁が食道にも逆流することで逆流性食道炎を生じる場合もあります。特に胃と十二指腸を直接つなぐ(ビルロート1再建法と呼ばれています)かたちで再建をうけられた方で胆汁逆流が生じやすいと言われています。胆汁逆流による逆流性食道炎に対しては、蛋白分解酵素阻害剤や消化管運動改善薬を使用します。特に、夜間就寝時や早朝に胆汁が逆流し、不眠になる方や上半身を上げた状態でないと寝られない方もおられます。そのような場合は胆汁が残っている胃の中に入ってこないように消化管の流れを作り変える外科的治療が有効な場合もあります。
ただし、以前の手術によるお腹の中の癒着があることが多く、難易度の高い手術になります。以前の手術が腹腔鏡で行われている際には、再度腹腔鏡で行うことも可能な場合がありますが、通常は開腹下に行われることが一般的です。
胃切除後逆流性食道炎の治療 |
● 食・生活指導 - 1回の摂取量を減らす。よく咀嚼する。 - コーヒー、アルコール、香辛料などを避ける。 - 食後すぐに横にならない。2~3時間空けて就寝する。 ● 薬物治療 - 蛋白分解酵素阻害剤 - プロトンポンプインヒビターまたはH2ブロッカー - 消化管運動改善薬など ● 外科的治療 - 日常生活への支障や栄養障害があり、保存的治療で 改善しない場合に、癌の再発が無く耐術能がある方 に対して適応となる。 |
当院では外科手術においては腹腔鏡手術を積極的に適応し、現在外科手術件数の60%程度が腹腔鏡手術になっています。
2017年より内科的治療で改善しないか症状が持続するような胃切除術後の難治性逆流性食道炎に対しても腹腔鏡下に手術を施行しておりますが、やはり癒着が高度な場合があり、安全に手術を行うことを重要視すると開腹手術へ移行する可能性も高い手術であると実感しております。しかし、外科的治療を適応した方は明らかに症状が改善する方が多く、内科的治療が無効な方には積極的に適応してもよい手術であると考えております。
胃切除後の難治性逆流性食道炎は、通常の逆流性食道炎とは異なる特殊な病態であり、胃手術後の病態生理ともに良性食道疾患に対する知識も必要です。当院では食道疾患に対する知識が豊富な食道科認定医が3名常勤しており、様々な食道疾患のみならす胃切除後の逆流性食道炎に対して診療にあたっております。