内視鏡外科部長の竹村と申します。
食道裂孔ヘルニアとは、通常はお腹の中に固定されている臓器である胃が横隔膜にある食道裂孔(食道が通過する穴)を通して胸にずれ込む、体内で起こる形態的な変化です(いわゆる内ヘルニア)。内視鏡検査でも多くの方に診断される非常に頻度の高い病気です。
食道裂孔ヘルニアがあっても大部分の方では脱出は軽度で、無症状で経過されておられる方も多くありますが、脱出する胃の量が大きくなってくると、嘔吐が頻回に生じ誤嚥性肺炎が発症したり、脱出した胃の捻転により壊死が生じたり、大腸や小腸などの他の臓器も一緒に脱出したりなど命に関わってくる可能性もでてくる非常に特殊な病態です。
症状は多彩で、その多くは逆流性食道炎と同様の症状ですが、喉の違和感や嘔吐・ゲップ・時に胸痛(心窩部痛)が生じます。また、夜間や早朝に胃液が逆流してくることも多く、不眠から睡眠障害を生じる方もおられます。治療は対処療法・内服治療・外科的治療に分けられ、対処療法としては上半身を少し上げて就寝することや、就寝1時間から2時間前には食事や水分を摂取しないことがあげられます。さらに、体重を落とすことや、腹圧を上げるような姿勢はしないことがあります。
内服治療としては逆流性食道炎の治療で用いられる内服薬(胃酸を抑制する制酸剤により逆流物の刺激を抑える)や胃から食物の排出を促進させる薬(逆流する可能性のある胃内容を減らす)などを使用します。これらの治療によっても症状が改善しない、または薬を飲むことで副作用がでる、嘔吐が頻回にある、夜間の睡眠障害が改善しないなどの方には外科的治療が適応になります。さらに、胃の捻転など生命に関わる状態を回避したい方、頻回の嘔吐により誤飲を繰り返す方なども適用になります。
しかし、がんに対する外科的治療とは異なり、手術の適応が厳密に決まっているわけではありません。先ほどのような様々な症状があっても、全ての方が外科的な適応になるのではなく、症状があるままで過ごしておられる方も沢山おられます。
さらに、食道裂孔ヘルニアに対する外科的な治療は、最近では体に対して影響の少ない腹腔鏡手術で行われることが一般的で、概ね安全に施工できますが、がんの手術と異なり特殊な手技を必要とし、手術件数が少ないと術後の治療成績が安定しません。さらに頻度は少ないながらも、逆流症状や食道裂孔ヘルニアが再発したりする方、食事がつかえる症状やガスがお腹に溜まりやすいなどの症状が出ることがあります。
食道裂孔ヘルニアに対する手術は以前は開腹で行われていましたが、現在は腹腔鏡手術と呼ばれる傷の小さい術式が適応され、お腹に10mm~5mmの穴を5カ所から6カ所開けて腹腔鏡や細長い手術器具(腹腔鏡用鉗子)を入れて手術を行います。
当院では2017年より逆流性食道炎や食道裂孔ヘルニアに対する腹腔鏡下手術を導入し、現在では年間50件の手術件数があります。外科的治療後には、喉の違和感や夜間の逆流症状、慢性の咳などが改善する方も多く、非常に良い手術であると考えますが、今後とも安全性に最も注意し行っていく所存です。