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当院の鼠経ヘルニア(脱腸)に対する手術について

外科コラム

内視鏡外科部長の竹村と申します。

 ある部位から別の部位に臓器が脱出する状態をヘルニアと呼んでいますが、ヘルニアは体の様々な部位に生じる病気で、椎間板ヘルニアや鼠経ヘルニアが知られています。今回は当院の鼠経ヘルニアに対する治療について述べます。

 鼠経ヘルニアは鼠径部(下腹部)に膨隆が生じる病態であり、腹部の筋肉の欠損部からお腹の中の腸が飛び出してくることから脱腸とも呼ばれています。幼児期に多いことが知られていますが、筋肉が衰えてくる高齢者の増加とともに、最近は成人鼠経ヘルニアが増加してきています。

 この鼠経ヘルニアはお腹の筋肉の欠損や弱くなることが原因のため、薬や筋肉を鍛えることでは全く治療できず、唯一の治療方法は外科的に穴を塞ぐ手術を行うことです。現在、鼠経ヘルニアの手術はメッシュと呼ばれる薄いシートを用いて穴を塞ぐ術式が一般的ですが、そのメッシュの挿入と固定を鼠径部の皮膚の切開部から入れて体外から行う前方アプローチと、腹腔鏡という手術器具でお腹の中から穴を観察して穴を塞ぐ腹腔鏡アプローチの2種類があります。

 以前は鼠経ヘルニアに対する手術は前方アプローチが主流でしたが、腹腔鏡手術の普及とともに腹腔鏡下鼠経ヘルニア修復術の割合が増加し、現在では年間約4万件の鼠経ヘルニアの手術のうち、2万件を超える手術が腹腔鏡手術で行われています。当院では2014年から腹腔鏡下ヘルニア修復術を導入しています。この腹腔鏡下ヘルニア修復術のメリットとしては、1.傷が小さい、2.術中に両側ヘルニアと診断されても一度で手術ができる(前方アプローチでは無理)、3.肉眼で見るのではなく拡大されて映し出される画面を見て手術するので鼠径部の解剖学的構造が確認しやすく安全に行える、ことにあります。ただし、全ての方に腹腔鏡手術が可能ではなく、1.以前に下腹部の開腹手術を受けている、2.腹腔内の癒着が強度で広範囲ある、3.腸管が嵌頓(かんとん)し腸閉塞の状態になっており腸管の拡張がある場合、4.以前に前立腺の手術を受けている方、には腹腔鏡下にヘルニア修復術は困難で、その場合には原則として前方アプローチを行います。

腹腔鏡下鼠経ヘルニアのメリットと困難な状況

● 腹腔鏡下ヘルニア修復術のメリット
1.傷が小さい
2.術中に両側ヘルニアと診断されても一度で手術ができる(前方アプローチでは無理)
3.肉眼で見るのではなく拡大されて映し出される画面を見て手術するので鼠径部の解剖学的構造が確認しやすく安全に行える

● 腹腔鏡下にヘルニア修復術は困難な状況
1.以前に下腹部の開腹手術を受けている
2.腹腔内の癒着が強度で広範囲ある 
3.腸管が嵌頓し腸閉塞の状態になっており腸管の拡張がある場合
4.以前に前立腺の手術を受けた既往がある

 当院での鼠径ヘルニアに対する手術は年々増加しており、現在は年間100件以上の手術を行っています。2014年の腹腔鏡下鼠経ヘルニア修復術の導入以降は腹腔鏡の手術が増加しており、現在では87%以上の手術を腹腔鏡で行っています。

 鼠経ヘルニアの手術で最も問題となるのは鼠経ヘルニアの再発ですが、腹腔鏡手術でもやはり再発はあるとされています。本邦の集計によると腹腔鏡手術後のヘルニア再発は1~2%とされていますが、当院では導入以降腹腔鏡下鼠経ヘルニア修復術を行った方では鼠経ヘルニアの再発は認めていません。しかし、今後とも安全に再発を起こさない手術を心がけて行っていきたいと考えています。鼠径部の痛みや膨隆を自覚する方は当院外科を受診いただければ診断と体に負担の少ない治療が可能ですので、是非受診していただければと思います。