手術支援ロボット ダヴィンチとは?
手術支援ロボットはもともと離れた場所から遠隔操作での腹腔鏡手術を可能とするために開発された医療機器であり、高精細の画像が得られる腹腔鏡とともに、外科医の意のままに動くアームを有していることが特徴です。あくまでも外科医が動かすロボットであり、ロボットが自動で手術を行うわけではありません。外科医が患者さんから離れたところで装置(サージョンコンソール)を操作し、患者さんの横にあり鉗子が連結された装置(ペイシェントカート)を動かすことで手術を行います。(図1・2)
手術支援ロボット ダヴィンチの利点と欠点
手術支援ロボットによる手術はあくまで腹腔鏡下手術の延長にあるものですが、様々な利点と欠点を有しています。
手術における利点
❶ロボットアーム先端の鉗子は人間の手首より広い可動域を有している
❷3Dハイビジョンカメラによる鮮明な画像情報により手術野の微細な構造物が確認できる
❸外科医の実際の手の動きを縮小して鉗子が動く
❹手振れがない (図3)
などの利点があり、手術に対する習熟も早いとされています。
また、患者さんにとってのメリットも多くあり、傷口が小さく、出血量・輸血量も少なく、術後の回復が早いことと、様々な機能が温存できることが挙げられます。
手術における課題と欠点
❶触覚が欠如し、操作に慣れるまで時間がかかる:外科医は自分の手や腹腔鏡の鉗子を介して組織の硬さを感じていますが、ロボット支援手術では触覚が全く欠如しています。しかし、慣れてくれば視覚的にある程度触覚が感じられるとされています。
❷患者さんの体が小さいとアーム・鉗子同士の干渉が起こりやすい
❸指導医やトレーニング施設の不足:各施設で十分に経験を積んだ医師は非常に少なく、トレーニング施設も少ない。
❹導入コストが高い
などの課題や欠点もありますが、今後様々な手術支援ロボットが開発されてくると、改善される可能性があります。
当院外科で可能な手術支援ロボットによる術式
直腸がん
直腸がんは早期の段階では自覚症状はほとんどありませんが、進行すると血便や下血、便が細い、おなかが張るなどの症状が出ることが多くみられます。このうち、血便や下血は痔などの肛門の良性の病気でも同様の症状があり、直腸がんの症状との区別は困難です。直腸がんの診断のためには、早めの受診と内視鏡検査が重要です。直腸の手術部位は狭く奥深い骨盤内となりますが、ダビンチの多関節機能などのメリットを最大限活かせば、正確で繊細な手術が可能となります。それによって根治性の高さ、肛門・排尿・性機能などの機能温存や早期の回復が期待できます。
結腸がん
最近になり直腸以外の大腸(結腸)に発生する癌にもロボット手術が適応となりました。これにより、ロボット支援下に難易度の高い高度進行癌や肥満患者さんに対しても安全な手術が可能となりました。詳細な3D画像の立体視により安全なリンパ節の切除(郭清)や、腸管の切除後の再建(消化管の流れを再度作る)もおなかの中で行うことが可能になり、患者さんに従来の腹腔鏡下手術以上に身体の負担を減らす効果が期待できます。
胃がん
2018年4月から胃がんに対してロボット支援手術が保険適用となり、当院では、2020年7月から手術を実施しています。当院での胃がんに対する手術は、腹腔鏡下手術でほとんどの方に行っていますが。通常の腹腔鏡では真っ直ぐな鉗子であり、手術操作の行い難い場所もあります。その一方で、ダヴィンチでは手振れがなく、先端が多関節で自由に動く鉗子により、腹腔鏡で操作困難な部位でも操作が容易になります。
当院でのロボット支援手術導入後の状況
2023年よりロボット支援手術の開始に向けて術者のトレーニングや他施設の手術見学・オンライントレーニングなどを行った後に2024年2月より手術を開始しました(図4)。
2024年8月末までに、大腸がん:31例(直腸がん:7例・結腸がん:24例)と胃がん:3例に適応しております(図5)。
これまで開腹や腹腔鏡手術への移行例はなく、安全に手術が行えています。今後も安全に手術を行うことを重視し手術を行っていきます。